
あらすじ
これは私、河合譲治とその妻――河合夫人との、昔話であります。 彼女と初めて会ったのは八年前、私が二十八の時分です。 当時やっと数え歳の十五であった彼女は、カフエエの給仕をしていました。 そんな子供に興味を持った理由はハッキリとは覚えてはいませんが、 多分最初は、その児の名前が気に入ったからなのでしょう。 彼女の本名は奈緒美と云い、そのナオミという西洋風でハイカラな名前が、私の好奇心に投じました。 私はかねてより西洋趣味で、古めかしい日本式の「結婚」という儀式張ったものを嫌っていました。 私の望みは、「世帯を持つ」と云うようなシチ面倒臭いものではなく、 もっとシンプルに、気に入った女と遊びのような気分で、一軒の家に住むことでした。 そういう意味で、ナオミは私の眼鏡にかなったわけです。 一面では彼女の境遇に同情した結果でもあるわけですが、 他の一面には私自身のあまりに平凡な、あまりに単調なその日暮らしに色彩を添えたかったのです。 この児を引き取って世話をしてやろう。 ナオミはきっと女中の役もしてくれ、小鳥の代りにもなってくれよう。 そして望みがありそうなら、大いに教育してやって、自分の妻に貰い受けても差し支えない――。 やがて、正式に河合夫人となったナオミは、女性らしい美しさを増していきました。 しかし全てが私の理想通りというわけにはいきませんでした。 ナオミは、男を欺し利用する――いわゆる毒婦へと、成長してしまったのです……。 私達夫婦の関係は、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いないでしょう。